2026
大磯
傾斜地から始まった19年の物語
――広橋さんに聞く、オープンガーデンの歩み
ガーデン番号30番 広橋さんへのインタビュー全文を掲載します。日吉が聞き手を務め、大倉もところどころで言葉を添えながら、お話をうかがいました。パンフレットでは一部のみの掲載となりますが、こちらでは全編をご覧いただけます。
第一章「オープンガーデン19年の歩み」
オープンガーデンという活動を、今どう感じていらっしゃいますか
庭づくりが好きで、花が好きで、自分流にやってきた庭を皆さんにお見せするというのは、最初は抵抗がありました。
しかし、庭を通してお客様やお友達との交流が深まり、ガーデン仲間とも親しくなりました。今では、それがとてもありがたく、楽しいと感じています。
この家に来たとき、土地はただの傾斜地で何もありませんでした。このままにしておくのはどうかしらと思い、造園業者さんに依頼して階段や手すりをつけ、花や野菜ができるような形に整えました。それがきっかけで、なんとかしなくてはと思いながら庭を作ってきました。
高低差のある土地での庭づくりについて、印象的だったことやご苦労はありますか
やはり、高低差があるということはなかなか良いのですけれども、土を運んだり、砂利を整えたり、レンガを運んだりするのは本当に大変です。周りの方に助けていただきながら、少しずつ。最初は主人がおりましたので手伝ってもらっていました。今は小さな袋にして運んだりしています。
それでも「やりようがある」というのが面白いところです。デッキを少し改造して大きくしたら、海がより広く見えるようになりました。
オープンガーデンに参加された、最初のきっかけは何だったのですか
石神台の中で活動していた「石神台花クラブ」には入っていませんでしたが、私は自分の好きな色合いで、自分の好きな花だけで花壇を作っていました。それを他の方が見てくださって、声をかけていただいたのが、最初のきっかけです。
最初の頃から、どう変わってきましたか
変わってきますね、やはり。この場所は駅から遠いですから、何年もの間、ほとんどお客様がお見えにならなかったんですよね。だけど、そのころは石神台にはもう少したくさんお庭がありましたので、私の友達に案内状を出したり、この辺りだけですが案内をしたりしました。
初期のパンフレットについて
最初の頃のパンフレットも、今とは違いましたね。細長い形のものや、簡易な一枚のものもありました。写真も載っていなかったんです。写真を載せようとおっしゃったのは、永嶌さんでした。
それから、大倉さんがこちらの方面をツアーでご紹介くださったころから、足を運んでくださる方も増えてきました。石神台のお庭は、その頃、少しずつ減ってきていましたけれどね。
この19年の中で、特に印象深かった出来事や年はありますか
毎年楽しみにして、秦野から来てくださるお客様が「今年も来ました」とおっしゃってくださると、本当にうれしいですね。ここまで足を運んでくださるのが、ありがたいです。
それから、友人たちが会期の時に集まって、わいわいと楽しむのも、もう一つの年中行事になっています。それも、毎年の楽しみのひとつです。
ガーデナーさん同士で繋がりや交流はありますか
それほど多くはありませんけれども、お顔を拝見している方には、声をかけていただくことがあります。以前に、1回か2回ほど集まりがありましたけれど、その後はなかなか機会がなくて。近年は「フレンドリーツアー」があり、参加させていただきとても楽しく参考になりました。こういうのもいいなと思いましたね。会期中は、どうしても自分の庭から離れられませんので。
第二章「見せる庭と暮らす庭のあいだ」
オープンガーデンに参加してよかったなと思う瞬間は
やはりお客様とお話しできることですね。うちは実は感想ノートを置き、お茶を出しているのです。ここ、海が見えるデッキで、お客さんをご案内して。会期後そのノートを読むのも楽しみです。
流れるように見るだけでなく、ここで一息つけたわという方もいらっしゃいますし、お年を召していて、上からしか見られない、ここで待っているとおっしゃる方もいらっしゃるのね。そうするとそこでお茶を飲んでいらして。それもなんとか続けたいなと思っているのですけど。
19年という長い間、途中で休みたいなという年はありませんでしたか
休みたいと思ったことは……ありませんでした。ただ、コロナの頃は残念でしたね。皆さんがお庭を見たかったとおっしゃって。やはり少し寂しかったです。
長い間続けて来られたのは、何が支えだったのですか
やはり、自分の好きな花たちですね。ここは風が通って、鳥の声もして、本当に里山風なんです。そんな中で、お客様と1年に1回でも交流できることが、とても楽しいなと思えて。だから続けてこられたのかなと思います。
それに、好きなのですよね。小物を少しずつ置いたり、自分の好きなようにではありますけれど、そういうものを見て、楽しんでいただけたらと。
(紅茶をいただきながらの雑談にて)
足元に咲いているような花が好きなんです。華やかなお花も素敵ですけれど、私は小さな花が好みなので。ただ、見せるということを意識すると、少し色を入れたほうが良いかなと思う自分もいて。前は青と白と紫くらいしか買っていなかったのですけれど、赤やオレンジも少し入れるようになりました。ルピナスもそうなんです。2023年か24年頃に、小学校時代の友達がたくさん持ってきてくれて。植えてみたら意外と華やかで目立つのです。次の年に来た方が「来年もルピナスに会いに来ます」なんておっしゃってくださると、やはり続けたいなと思いますよね。
大倉:そうそう。「あそこへ行くとあの花に会える」って、いいのよね。
ありますね、そういうの。
自分が暮らしている庭と、お客さんに見せる庭のバランスは
自分では意識していないつもりでいましたが、やはり少し意識しているのかもしれません。好きな色ばかりだと少し地味かな、と考えたり。上から一段・二段・三段と下りていく庭なので、どこからどう見えるか、一応図面のようなものを書きながら配置を考えています。昔は友達に下に立ってもらい、「もう少し、こちらで」なんて上から声をかけて調整していました。
でもそれがなければ進化できなかったかもしれません。やはり、お客様にご覧いただく場があるからこそ、この庭はここまで進化できたのだと思います。それが元気のもとでもあります。
2022年に手術したときも、お医者さんが「どうしたいですか」と尋ねてくださったので、「ガーデニングをしているのですが、これからもガーデニングが続けられるようになりたいです」と答えました。先生も「それはいいですね」とおっしゃって。そういう支えがあったからできたのだと思います。ありがたいことです。
第三章「季節をめぐる知恵と工夫」
育ててみて意外と手がかかる植物、逆に簡単だという植物はありますか
特にこれといったものはありません。行き当たりばったりです。秋にはすこし種まきをしました。種はご近所の方からいただいて。たくさん採れたからと分けてくださるの。ニゲラとアグロステンマと千鳥草。私の好きな花なんです。だから他の方も、「あなたはこれがお好きでしょう、アグロステンマだけ持って行くわね」と、そんなふうに。
アグロステンマ(ムギセンノウ)は、ちょっと高さがあって、わりと倒れないのですよ。しなやかな感じ。
だけどそういう種まきでも、それがどう育ってくれるかが、なかなか専門家ではないのでわからない。去年も種まきをしたのですけど、あまりに暑かったので少し遅くしたら全く発芽しなかったのです。だから今年もどうかなと心配です。
一番難しいのが、花たちが一番良い状態・美しい姿である時をオープンの日に合わせる事です。自然相手なので不可能かも知れませんがいつも祈っています。
植物にも流行がありますか。あの頃みんなこれを植えていたな、というものは
流行はあるかもしれませんね。春になると、パンジーやビオラは一番癒してくれます。長く楽しめますし、種類もどんどん増えていて、頼りになるお花です。私は特にビオラが好きなんです。パンジーは少し大きくて、だらりとしてしまう印象があって。何しろ、小花が好きなので。
ネモフィラも、最近は人気がありますね。青い花は、私も好きですし、皆さんも結構好きなようで。ワスレナグサもそうですけれど、「かわいい」と言われるのはブルー系統の花が多いように思います。
ただ、どう変えていったらいいのか、毎回悩みます。毎年来てくださる方に、同じねと思われてもいけないかな、と。それでも、「ここに来ればこれに会える」というのも、いいですよね。難しいところです。
変えられないものもありますし。うちにもアジサイがたくさんあります。クリスマスローズも大好きです。
気候変動で、花の咲く時期や色の出方は変わりましたか
変わりましたね。花の時期を読むのは特に難しい。「5月が最盛期かな」と思っていても、もう少し早く咲いたり。私はバラをやっていないので、4月は大丈夫なのですけど、5月は「何をお見せしようかしら」と少し悩むときもあります。クリスマスローズも終わってしまいますし。
それを助けてくれるのが、今のところオルレア。どこに隠れていたの、と思うほど小さかったものがある日ぱっと上がってきて、もう本当に白一色になるんです。4月にいらした方が、5月にまたお見えになると、「まったく印象が違う」とおっしゃって。こぼれた種で出てきてくれるんですよね。抜くほどに元気に。
ただ、こぼれてほしいところには、なかなかこぼれてくれない。一度、斜面が真っ白になったことがあって。またあんなふうになってくれたらいいのですけれど、なかなか難しくて。
気候変動のなかで工夫されていることはありますか。夏場の水やりはどうされていますか
夏の間は、手入れがなかなかできません。暑くて外に出られませんから、雑草が増えてしまいます。このところ、それがとても多くて。水やりは、二段目や三段目にも水道がありますのでできるのですけど、夏はあまり花を植えていないんです。少し土を休ませたいというのもありますし。木はそれほど水やりの必要がありませんから。玄関まわりの鉢植えだけ、毎日見てあげています。
お庭でいちばん美しい季節と時間帯はいつでしょう
やはり4月ですね。私の庭は、景色もひとつの楽しみだと思っているので……天気の良い日に当たると嬉しいです。3日間とも晴れてくれたら、もうラッキーだなって。お客さまが入ってこられて、海がきれいに見えるだけで印象が違いますから。
「いつもデッキでお食事なさるんですか」と聞かれることもあるのですが、実はできる日はそう多くありません。風が強かったり、蚊がいたり、雨が降ったり。1年のなかの限られた日だけです。だからこそ、皆さんがいらっしゃるときは晴れてほしいなと思ってしまいますね。雨の日も「それはそれで良かったですよ」と言ってくださる方が多いのですけれど。雨のあとも、確かにいいんですよね。
大倉:一度、雨上がりに、白くけむって見えた日があったでしょう。あれは、ほんとうにきれいでしたね。
第四章「未来へのまなざし」
これからお庭づくりを始めるガーデナーさんたち、オープンガーデンを続けていく若い人たちに、何か伝えたいことやアドバイスはありますか
やはり、花を愛してほしいと思います。そして、花が自分に与えてくれるパワーを感じてほしいです。
自分が花を育てているつもりでも、きっと花は私たちにパワーや優しさや感動、いろいろなものを渡してくれていると思うんです。それをちゃんと受け取りたいなと、いつも思いますね。
だから、「まあ、こんなところにつぼみを持っているじゃない」とか、つい話しかけてしまうんですよ。ジンジャーの花も、まだ咲いていないですけれど、つぼみを持っていまして。「頑張っているじゃない」とか、「よくついたね」とか。
そうやって一緒に過ごしていると、こちらが癒されているんだなあと感じ、豊かな気持ちになりますね。
お庭のなかで、自分らしさが出ているという場所はありますか
造園業者さんにお願いしたのですが、そのとき一番こだわったのがアイアンの手すりなんです。
流れるような曲線のデザインで、あれだけは絶対に外したくなくて。既製品だと角張ってしまいますので、特別に作っていただきました。この手すりが好きなんです。なんて言うと、少し変かもしれませんけれど。
それから、小さな小物たちですね。吊るしたり、置いたり、少しずつ集めてきたものを飾っています。小さな椅子に人形を座らせていた年があって、次の年にいらしたお客様から「あの人形は今年はいないのですか?」と聞かれたことがあるんです。ああ、見てくださっていたのだなあと思うと、とても嬉しかったですし、お客様に言われて、自分でも去年のことを思い出したりして。
小さなものでも、そうして覚えていただけるのは嬉しいことですよね。
インタビュー・構成:日吉(ガーデン番号45番)
同席:大倉(ガーデン番号20番)